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Fanatecはなぜ経営危機に陥った? 急成長するMOZAと比較するシムレーシング機器20年史

🏎️「いつかはFanatec」だった時代から、MOZAの時代へ?

シムレーシング機器の世界で、大きなニュースが飛び込んできました。

MOZA Racingが、Gran Turismo World Seriesの新たな公式周辺機器パートナーになったのです。

さらに単なるスポンサー契約ではなく、Gran Turismoと共同でPlayStationにネイティブ対応する新しいステアリングコントローラーを開発することも明らかになっています。

このニュースを見たとき、僕が最初に感じたのは、

👉 「時代が変わったな……」

ということでした。

なぜなら、ほんの数年前まで「Gran Turismo公式」「PlayStation対応DD」といえば、真っ先に思い浮かぶメーカーはFanatecだったからです。

2021年にはGran TurismoとFanatecが提携を発表。
翌年に向けてGran Turismo DD Proが登場し、2023年にはFanatecがGran Turismo World Seriesの公式ステアリングホイールパートナーとなりました。

ところが、そのFanatecを運営していたEndor AGは2024年7月に支払不能・債務超過を理由に破産手続きを申請。

同年9月にはCORSAIRがFanatecブランドと関連事業を買収しました。
Fanatecブランドそのものが消滅したわけではありませんが、創業企業Endor AGとしての歴史には事実上大きな区切りがついたわけです。

そして2026年。

そのGran Turismoの公式パートナーに、新興勢力だったMOZAが加わりました。

これは偶然なのでしょうか?

今回は、

「なぜFanatecはあれほど強かったのか?」

そして、

「なぜMOZAはここまで急速に勢力を拡大できたのか?」

僕自身がFanatec製品を使ってきた経験も含めながら、シムレーシング機器の歴史と一緒に考えてみたいと思います。🎮


📅 まずはFanatecとMOZAの歴史を並べてみる

細かな製品をすべて並べると膨大になるので、ここでは業界の流れを変えた主力製品を中心に整理します。

時期FanatecMOZAシムレーシング市場
1997年Fanatecブランドを展開するEndor創業家庭用FFBハンコン黎明期
2000年代Porsche等のライセンス製品で高級路線を確立Logitech等が一般層を拡大
2016年CSL Elite Wheel Base登場ベルトドライブ高性能機が人気
2018~19年Podium DD1/DD2
20Nm/25Nm級DD
DDは超ハイエンドの世界
2020年コロナ禍でシムレーシング需要急増リアルレーサーも大量参入
2021年CSL DD発表。
5Nm/8NmでDDを一気に身近に
R16/R21などで本格参入「DDの大衆化」が始まる
2021年Gran Turismoとの提携発表PlayStation×DDへ
2022年Gran Turismo DD Pro本格展開R9(9Nm)・R5など製品群を急拡大DDメーカーが急増
2023年GTWS公式ステアリングパートナー。
ClubSport DD系登場
R3、R12など上下へラインナップ拡張DDが完全に主戦場へ
2024年Endor AG経営危機→破産申請
→CORSAIRがFanatec事業取得
Lamborghiniとの提携など拡大新興メーカーの存在感が増大
2025年CORSAIR傘下で再建R21 Ultra/R25 Ultra、Lamborghini、Mercedes-Benz等へ展開エコシステム競争へ
2026年Fanatecブランドは継続、新Podium DDなど展開Gran Turismo公式パートナー入りMOZAがPlayStation市場へ進出

FanatecのCSL Eliteは2016年、Podium DD1/DD2は2018~2019年頃、CSL DDは2021年に登場しています。
DD1は20Nm、DD2は25Nmという、現在でも十分ハイエンドと呼べる性能でした。

一方のMOZAは2021年にはR16/R21を投入し、2022年3月には9NmのR9を発売。
その後かなりの速度で上下の価格帯へ製品を増やしていきました。

現在のMOZA公式ラインナップではDDベースだけでも3.9Nmから25Nmまでをカバーしています。

この表だけでも、両社の違いが見えてきます。


👑 かつてFanatecは「憧れのメーカー」だった

僕がレーシングシミュレーター機器に興味を持ち始めた頃、Fanatecは明確に特別な存在でした。

僕の中では、

👉 「いつかはFanatec」

という感じで、当時は今よりもレーシングシミュレーターに対しての免疫がなかったので5万円、10万円、それ以上の金額を出すという感覚などはなくFANATECを買うということは特別なことでした。

昔の「いつかはクラウン」に近かったかもしれません(笑)

Logitechなどの一般的なハンコンからシムレーシングを始めて、

「もっとリアルなものが欲しい」

「もっと良いペダルが欲しい」

「もっと強いFFBが欲しい」

となって調べていくと、Fanatecに辿り着く。

そんなメーカーでした。
※実際にはSimucubeに代表されるOSW製品が最高峰であり、その存在も知っていましたが。

実際、僕自身もCSL Elite Racing Wheelを使いましたし、その後には当時Fanatecの最高峰だったPodium DD2まで購入しました。

25Nm。

今見ても十分すぎるスペックです。

当時としては、

👉 「家庭用レーシングシミュレーターでここまでやるのか」

という製品でした。


🚀 FanatecはDD普及の立役者でもある

ここは、後の経営危機だけを見てFanatecを評価してはいけない部分だと思っています。

Fanatecはシムレーシング業界に大きな功績を残しています。

特に僕が大きかったと思うのが、

CSL DD

です。

2021年4月に発表されたCSL DDは、「Direct Drive for everyone」を掲げました。

それ以前のDDは、

「ものすごく本気の人が買うもの」

でした。

DD1/DD2やSimucubeなどは価格も設置環境も含めて完全にマニア向け。

そこへFanatecが比較的手の届きやすい5Nm/8NmクラスのDDを持ってきた。

これによって、

ベルトドライブ → DD

という現在では当たり前になった流れが一気に加速したと僕は思っています。

つまりFanatecは、

👉 DD時代に負けたメーカーではありません。

むしろ、

👉 DD時代を作ったメーカーの一つです。

だからこそ、その後の展開が興味深いのです。


🥇 そしてGran Turismoまで手に入れた

2021年7月、Gran TurismoとFanatecは新しいレーシング周辺機器を共同開発すると発表しました。

Gran Turismo側も当時、Fanatecについて「長年シミュレーションハードウェア技術の最前線にいる」と評価しています。

そしてGran Turismo DD Pro。

2021年末に予約が始まり、日本価格は税込92,900円。

PlayStation対応の公式DD。

これは当時、非常に強い商品でした。

さらに2023年にはGTWS公式ステアリングホイールパートナー。

ここまでを見ると、

👉 Fanatecの天下はまだまだ続く

ように見えます。

ところが、その裏側で会社は大きな問題を抱えていました。


📉 何がFanatecを狂わせたのか?

ここは慎重に分けて考える必要があります。

僕自身、

「Fanatec製品はファームウェアアップデートが怖い」

「故障が多い」

「サポートが遅い」

といった話をSNSで見ることが増えた印象があります。

実際、2024年前後のユーザーコミュニティには、ファームウェア更新後に製品が動作しなくなったという報告や、RMA・サポート回答に長期間を要したという投稿が複数あります。

ただし、これはあくまでユーザー報告です。

ここから、

「Fanatec製品は壊れやすかったから倒産した」

と結論付けることはできません。

そして実際、Endor AGが経営危機に陥った直接的な理由はもっと企業経営側にあります。


💰 Fanatecを倒したのは製品ではなく「経営」だった?

2024年7月30日、Endor AGは債務超過と支払不能を理由として破産手続きを申請しました。

興味深いのは、その直前まで会社に売上がなかったわけではないことです。

Endorは2023年の売上を約1億200万~1億600万ユーロと見込んでいました。

しかし同時に2023年のEBITDAマージンは**マイナス10~15%**を見込んでいました。

さらにCORSAIRも買収発表時、Fanatecの2023年売上を約1.1億ドルと説明しています。

つまり、

👉 商品がまったく売れなくなって倒れた会社ではない。

ここが重要です。

売上規模はある。

ブランドもある。

Gran Turismoとの関係もある。

商品力もある。

なのに経営が持たなかった。


⚠️ 成長しすぎた会社が抱えた問題

Endor側が破産申請時に示した説明では、近年の経営判断にも問題があったとされています。

報道された内容には、

  • 新本社への大規模投資
  • 半導体・商品発注の読み違い
  • 在庫等に関する損失
  • 業務プロセス・システム導入上の問題
  • 2020年以降の成長局面で膨らんだ借入

などが挙げられています。

つまりFanatecの物語は、

「競合に負けて売れなくなった」

という単純な話ではなさそうです。

むしろ、

👉 コロナ禍の急成長を会社自身が処理しきれなかった

という側面を見る必要があります。

これは企業の栄枯盛衰を考えるうえで非常に興味深い部分です。


🥊 その横から現れたMOZA

そして、Fanatecが経営面で苦しんでいた時期に勢力を急拡大していったのがMOZAです。

2021年には16NmのR16と21NmのR21。

2022年3月には9NmのR9。

さらにR5、R3、R12……

入門からハイエンドまで猛烈な速度でラインナップを埋めていきました。

そして2026年現在では、3.9Nm~25NmまでのDDラインナップを展開しています。

Fanatecが何年もかけて作った、

「一つのメーカーで全部揃う」

というエコシステムを、MOZAは非常に短期間で追いかけたわけです。


🔥 なぜMOZAはここまで伸びたのか?

僕は大きく5つあると思います。

① 最初からDD時代に参入した

Fanatecには、

ギア → ベルト → DD

という歴史があります。

MOZAにはそれがありません。

最初からDD時代です。

これは後発メーカーの強みです。

過去の商品体系との互換性や既存顧客への配慮といった「レガシー」を抱えず、2020年代の市場に合わせて製品を作ることができます。

② 商品投入がとにかく速い

R21だけを作って終わらなかった。

R9。

R5。

R12。

R3。

そしてR21 Ultra、R25 Ultra。

ステアリング、ペダル、シフター、アクティブペダルまで広げていった。

👉 価格帯の穴を猛烈な勢いで埋めていったメーカー

という印象があります。

③ 「安い中国メーカー」で終わらなかった

ここも大きいと思います。

価格競争だけをやっていたら、ここまでブランドは成長しなかったでしょう。

2024年にはLamborghiniのeスポーツ活動とのパートナーシップを発表。

その後もPorsche、Mercedes-Benz、MotoGPなど、リアルモータースポーツ・自動車メーカーとの関係を急速に増やしています。MOZA自身も2025~2026年を、こうしたブランド連携を拡大した時期として紹介しています。

つまり、

製品を売る → ブランドを作る

という次の段階に進んでいます。

④ 入門ユーザーを捨てなかった

これは以前の記事で書いた「G29的存在」の話とも繋がります。

現在でもMOZA R5は、海外メディアから「低価格DD」の代表的な選択肢として評価されています。

一方で25Nmまである。

👉 初心者を入口に入れて、そのまま自社エコシステム内で上級者に育てられる。

これは非常に強いビジネスモデルです。

⑤ そして最後のピースがPlayStationだった

MOZAには大きな弱点がありました。

PlayStationです。

PCでは強い。

XboxにもR3で進出した。

しかしPlayStationには入れていなかった。

そこに今回、

👉 Gran Turismo

が加わった。

Gran Turismoとの共同開発によるPlayStationネイティブ対応製品が予定されています。

これはMOZAにとって非常に大きな意味を持つと思います。


😲 そして何より皮肉なのが「Gran Turismo」

ここが今回の記事で僕が一番面白いと思うところです。

2021年。

Gran Turismoが選んだのはFanatecでした。

2023年。

FanatecはGTWS公式ステアリングパートナーになりました。

そして2024年。

Fanatecを運営していたEndor AGが破産。

CORSAIRが事業を買収。

そして2026年。

👉 Gran Turismoの新しい公式周辺機器パートナーとしてMOZAが加わる。

しかも現時点ではFanatecも公式パートナーとして残っています。

つまり今後は、

Fanatec vs MOZA

という構図が、Gran Turismoという同じ舞台で発生する可能性があります。

これは数年前には考えにくかった光景です。


🎮 僕自身もFanatecから離れていった

ここからは完全に僕個人の話です。

僕はFanatecが嫌いになったわけではありません。

CSL Elite Racing Wheelも使いました。

DD2も使いました。

むしろ憧れて買ったメーカーです。

でも、その後にSimucube 2を知りました。

そして実際に使ってみると、

👉 Fanatecへの興味が薄れていった。

これは「Fanatecが悪かった」というより、

選択肢が増えた

ことの方が大きかったと思います。

昔は、

「良いシム環境を作りたい」

「Fanatec」

というルートがかなり強かった。

でも今は違います。

Simucube、MOZA、SIMAGIC、Asetek……

選択肢が大量にあります。

つまりFanatecにとって本当に恐ろしかったのは、

自社製品が悪くなったことではなく、Fanatecでなければならない理由が薄くなったこと

だったのではないでしょうか。


🧠 「いつかはFanatec」がなくなった

僕はここがFanatecの栄枯盛衰を象徴しているように思います。

昔は、

Logitechから始める

本格的にやりたくなる

Fanatecが欲しくなる

という分かりやすい階段がありました。

Fanatecはその憧れの到達点だった。

しかしDDが一般化すると、

MOZAにする?
SIMAGIC?
Fanatec?
Asetek?
もっと出すならSimucube?

となりました。

王様が一人ではなくなった。

これは製品性能以上に大きな変化だったと思います。


⚙️ ファームウェアやサポートの評判は影響したのか?

ここは断定できません。

僕自身のFanatec製品では、致命的な問題を経験した記憶はありません。

一方でSNSやコミュニティを見ていると、

「アップデートが怖い」

「ファームウェア更新後に動かなくなった」

「サポートから返事が来ない」

というユーザーの声が目立った時期は確かにあります。

個々の投稿から故障率そのものを判断することはできません。

ただ、ブランドにとって、

👉 「壊れるかどうか」以上に「壊れそうと思われること」

は問題です。

まして10万円、20万円を超える機材です。

ユーザーが購入ボタンを押す瞬間、

「何かあった時、大丈夫かな?」

と思ってしまう。

その横に同価格帯の競合が何社も存在する。

この状況では、評判の積み重ねが購買判断に影響した可能性は十分考えられます。


🏆 では、MOZAが新しいFanatecになるのか?

僕はまだ分からないと思っています。

急成長には、急成長特有のリスクがあります。

奇しくもFanatec自身がそれを証明しています。

製品を増やす。

市場を増やす。

ユーザーが増える。

その結果、

  • 品質管理
  • 在庫管理
  • ソフトウェア
  • サポート
  • 修理体制
  • グローバル物流

も同時に巨大化します。

👉 売れることと、会社を健全に成長させることは別問題です。

これはMOZAにとっても無関係ではありません。


🔄 そしてFanatecは「終わったメーカー」ではない

ここも重要です。

Endor AGは破産しました。

しかしFanatecブランドはCORSAIRに取得され、現在も製品開発・販売が続いています。

2026年現在もCSL DD、GT DD Pro、ClubSport DD/DD+、そしてPodium DDなどのDDラインが展開されています。

だから、

「Fanatecの時代は終わった」

と書いてしまうのは早い。

むしろ僕が面白いと思うのは、

👉 CORSAIR傘下でFanatecがもう一度復活できるのか?

です。


🏁 Fanatec vs MOZA――第2ラウンドが始まる?

かつてFanatecは、

シムレーシングに憧れる人が目指すメーカー

でした。

そのFanatecがDDを普及させ、

Gran Turismoと組み、

業界の中心に立った。

しかし市場が急拡大すると競合が大量に現れ、自社は経営問題に陥った。

その間にMOZAは猛烈な速度で製品ラインナップを拡大。

そして2026年、ついにGran Turismoの公式パートナーにまで辿り着いた。

これだけを見ると、

👑 Fanatec

黎明期 → 成長 → 絶頂 → 経営危機 → 再建

🚀 MOZA

新規参入 → 急成長 → エコシステム構築 → 自動車メーカー提携 → Gran Turismo

という、非常に対照的な歴史になっています。


💡 僕がこの2社から感じること

結局、シムレーシング市場で勝つために必要なのは、

「一番トルクが強いホイールベースを作ること」ではない

のかもしれません。

技術。

価格。

ラインナップ。

ソフトウェア。

サポート。

流通。

ブランド。

ライセンス。

コミュニティ。

これら全部を含めて、

👉 ユーザーが安心してそのメーカーの世界に入れること。

Fanatecは一度、それを作ることに成功したメーカーでした。

そして今、そのポジションをMOZAが猛烈な勢いで追っています。

ただし、FanatecもCORSAIRという巨大な後ろ盾を得ました。

そしてGran Turismoという舞台では、今のところFanatecもMOZAも公式パートナーです。

そう考えると今回のニュースは、

「FanatecからMOZAへ王座交代」

ではないのかもしれません。

むしろ――

👉 「絶対王者だったFanatecに、MOZAがついに同じリングまで上がってきた」

そう見る方が面白い。

僕にとって「いつかはFanatec」だったメーカーがCORSAIR傘下でどう復活するのか。

そしてMOZAは、Fanatecがかつて到達した場所を超えていけるのか。

シムレーシング機器メーカーの勢力争いは、これからが一番面白いのかもしれません。🏁

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